晩秋のとある日、我々は、紅葉色付く山を見ながら車を走らせていた。
向かったのは、津市美杉町の山の中にある一軒家。
色付く紅葉が大変美しい。
そして、この見覚えのある丸い池と、遠くに佇むヤギ。
そう、ここは以前、木神楽で施工させていただいた日本料理店『朔』だ。
施工したと言っても、ここのセンスあふれる庭や店の造作は、ほとんどオーナー夫妻のセルフビルドによるものだ。
さて、そんな朔に来て誰もが目を向けるのは、何と言ってもこの特徴ある増築部分だろう。
四角く突き出た部分は、もちろん木のフレームで作っているのだが、注目すべきはこの外装である。
左官仕上げなのだが、まるで大地と一体となったようなその仕上がり。もちろんオーナー夫妻の手作りである。
この壁に強く惹かれていた私は、是非とも『小さく住む家』で再現したいと考え、その作り方の秘訣を探りに来たのだ。
我々が訪れた日は、ちょうどお店が休みの日で、オーナーご夫妻にゆっくりお話を聞く事が出来た。
何とあの壁は、そこら辺の土をただ拾ってきて、塗りつけただけだという事である。
それを聞いた我々は、オーナーの許可を得て、そこら辺の土を戴くことに。
紅葉の落ち葉をかき分け、崩れて露出した山肌の土を少々分けていただく。
この辺りの土は、砂や小石混じりの山砂。
この色々混じった感じが、あの壁の雰囲気を醸し出しているのだろう。
そして、帰り掛けに何気に見た地面に、多数落ちている陶器のかけらを発見。
実は、ここの奥様は焼き物で彫刻などを作るアーティストでもある。
その製作時に捨てられたこれらのかけらを、拾い集める。
さあ、材料が揃った。
現場へ戻って、大地の壁を作ろうではないか。
つゞく